よくいらっしゃいました隠しリンク連載小説




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(第18話)

「たじま」半天と二人のガクラン高校生は、私達を放り出すようにその場に置き去りにすると砂の上で立ち上がろうとしている丸坊主少年のもとへ駆け寄って行った。私達は、事態を把握できないままその場に座り込み、「たじま」達の行方を目で追った。彼らはそこで二言三言言葉をかわしたようだったが、もうすっかり私達のことはなかったことのように四人で砂浜を走り去っていった。なんだかずいぶん勝手ではないか。私達はどうなるのだ。こんな状態ではかえってブザマではないか、えっどうなんだ。といっても「じゃあ、ゴメンゴメン続けようか」と戻って来られても困るが....。私と綱川と高田は、お互い何となく泳ぐような視線を交わし合い、取り繕う咳払いをしたり、意味もなく「ハハン」などと声を上げ、気まずい空気をかき消そうとしていた。
「ふざけたやろうだぜ、な」
「サーファーだからってかよ」
「綱川、お前自分はサーファーじゃないって逃げたな」
「あらら、またそういう揚げ足取りみたいな事言う?」
「今日はお前、波乗りするな。頭きた。ずっとそこで見てろ」
「クゥ〜ン、クゥ〜ン」
「だめだっ、お手なんかしたって」
特に「たじま」半天にいいように殴られた高田にとっては、まだ笑い話にするにはちょっと話が生々しい。
「でもどうなったんだろうな。途中でな」私は、彼らの姿を目を細めて探したが、もうあの四人はどこにも見つからなかった。ともかくあの丸坊主の少年が「誰かがいなくなった」というような緊急事態を告げに来たのは間違いないが、それだけでは私達には見当もつかないし、関わる必要もなかった。

 私達はまたしばらく静かな時間を過ごした。波の砕ける音はゆっくりとして乱れない。広大でまばゆいビジュアルと静かなBGMが、自分を360度取り巻いているのだから心と身体は果てしなく安らいでいく。私もいい加減海に入って新しい世界を体験してみたかったが、サーフボードのない身ではどうしようもない。朝から出ていったボンジ達は、いっこうに帰ってくる気配がない。ぼんやりとボンジ達が浮かんでいそうな海上を見ていると、そこから7、80M離れた波打ち際に大勢の人が走り寄っていくのが見えた。それは何となくただならない気配と共に人集りがしていった。
「おい、なんだろう」私達は、すでに半分腰を上げながらその人集りに目を凝らした。 「ちょっと行ってみよう」私達も重い砂に足を取られながら走った。

 一人のサーファーが、5、6歳の女の子を両手で抱えながら砂の上を歩き、大勢の人間がそれを見守っていた。女の子はぐったりとし、両手両足が歩くリズムに合わせてだらんだらんと揺れているだけだった。抱えていたサーファーは、ボンジだった。
「トモッ!」ボンジのそばに駆け寄ったのは、さっきの中学生丸坊主少年と「たじま」半天だった。 「救急車、救急車呼んでくださいっ!」ボンジは、とても冷静な声で「たじま」半天に向かって叫んだ。それと同時にボンジの目が高田を見つけ、
「ようすけっ、救急車っ」
と叫んだ。誰ともなく口々に皆「救急車」と叫びながら、国道の方へ走っていった。ボンジは、波打ち際から10M程歩いたところで女の子の身体を静かに砂に横たえさせた。ボンジは、立ち上がると私達を見た。彼の目は恐ろしさに潤んでいるようで、紫色をした唇が震えていた。「たじま」半天は女の子の傍らに跪くとどうしていいのかわらないといったうろたえた声で「トモ」という名前を呼び続けた。

私は人集りをかき分け輪の中に出ると、急いで「たじま」と反対側に女の子を見下ろすように屈んだ。
そして女の子の水着を脇の下から力任せに引き裂いた。
(第19話へ続く)





(第17話)

倒しになった高田は、それでもそのまま髪の毛をしっかりと掴まれたままだったので、また強引に立たされ、右や左に引き回された。それはもう情けないほどなす術がなく、ブザマなことおびただしい。私と綱川は反射的に「たじま」に掴み掛かろうとした。しかし、残りのガクラン高校生2人が、逆に襲い掛かってきた。
自慢じゃないが私は生まれてこのかた、ケンカに勝ったことがない。ガキの頃からケンカはよくやった。そして必ずのされた。それもだいたい正義のケンカが多い。
小学生時代、西荻にあった春日神社の夜祭では、台の下のペダルで針の行方を操作しているインチキルーレット屋のおやじに「インチキはいけませんよっ」と大声を上げて、向こうずねをシタタカ蹴り上げられて歩けなくなった。
中学生時代は、こんなこともあった。日頃から「カバ、カバ」といってクラスのいじめっ子グループから様々なイヤガラセを受けていた友達を救おうと、ある日私はこのいじめっ子グループに敢然と立ち向かったのだ。
「もうやめろよ」
「何だよ梶谷、お前もいじめられたいのかよ」
「やるならやれっ、この野郎」
「なにぃ」
私はその場でクラスメートの前でコテンパンに叩きのめされた。
静かな時間が流れ、私が守ろうとしたこの友達と2人でフラフラと下校しながら、それでも私は何となく晴れ晴れしい気持だった。ところが、この友達は、
「俺がいじめられるのはなぁ、お前のせいだ」
と静かに呟いた。私は一瞬耳を疑った。
「なんでだよ。何故そんなことを言うんだよ」
すると彼は悲しそうな目をこちらに向け、こう言った。
「だって、カバっていうあだ名最初に付けたの、お前なんだ
思わず私がシェーッをしてしまったのは言うまでもない。
高校時代はこうだ。修学旅行先の京都の宿で真下の部屋が夜遅くまでドンチャカと騒がしい。他のクラスの男女が不純に盛り上がっていたのだ。私は窓の外の非常梯子を降り、その部屋の窓を開けると
「君ら、うるさい」
と文句を言った。しかし考えてみれば、自分達が気持ち良く盛り上がっている時にこんな鬱陶しい奴もいない。私は数人の男子生徒に梯子から引き摺り剥がされ、袋叩きになった。間の悪いことにその場に一番やっかいな美術の西原に踏み込まれ、
「他の部屋で何をやっとるんだ、このばか野郎がっ」
と6発も鉄拳を食らい、朝まで廊下で正座させられたのだ。
少しケンカというのとは違う気もするが、とにかく枚挙に暇がない。
 私と綱川にガクラン2人が殴り掛かって来たには来たが、それは狙いすました右ストレートで顔面をきっちり捉える、といったものではなく、闇雲に両腕を交互に振り上げ、顔中至る所に振り降ろしながらその体重でどんどんと押し込んでくるといった極めて原始的無手勝流だった。私にとってケンカの一番恐ろしい瞬間というのは、最初の一撃が繰り出される前の睨み合い、一触即発の一瞬だ。体中の神経が最末端までピリピリとしてほんの僅かな空気の「揺れ」までも鋭敏に感じ取ってしまう。ところが、一旦立ち回りが始まると、全身の血が頭に集結し、神経の糸が切れてしまうので怖さを感じなくなるし、どこをどう打擲されても痛みを感じない。その上、相手のガクランは、のされ慣れている私からすればまだまだ技も力も相当不足していたので、私はなかなか砂上にひれ伏さなかった。綱川は体の割にすばしっこかったので、かなり長い間砂浜を逃げ回っていた。

いきなり大きな叫び声が聞こえて奴等の動きが止まった。私は何を叫んでいるのか声の方へ首を回した。中学1年生くらいの丸坊主の少年が、砂に足を取られながら必死の形相で走ってくるのが見えた。
「にいちゃーん、にいちゃーん」
声変わりが始まって少しかすれた聞き苦しい声。
「にいちゃーん、トモが、トモがいねえ! 海ぃハマったんだ!」
少年はそう叫ぶと体を前にツンノメらせて砂の上に倒れ込んだ。
(第18話へ続く)




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