出産予定日より2ヶ月以上も早く緊急摘出施術となり、医者から「娘さんの命を優先します」と告げられ、どうか二人とも助かりますようにと祈り続けた手術室の前。 まだどうなるかわからない状態で初めて面会した玄貴は、痛々しい姿だった。 病院のスタッフ皆さんの介護の甲斐あり、直接会えるようになる。ゲンと「頑張ったな」と初めて握手をした日。 そして病院から渡された見積もりに「おおお」となった日。 そして玄貴を初めて抱っこして「こんなに軽くて小さい赤ちゃんなの」と驚いた日。 そしていつも玄貴と一緒に過ごした日々。 玄貴は今日、生まれ育ったタイを離れて日本へ行く。 昨日の朝の散歩の時に彼を抱っこして歩きながら彼に話した。 「ゲンは明日日本に行くからじーじと離れ離れになるけど、一つだけ覚えておいてくれる?」 「うん」 「これからじーじはそばにいないけど、いつもどんな時もゲンの味方だからね」 「みかたってなーに?」 「Be with youってことだよ」 「ああ。うん」 ゲンはそう答えると、抱かれながら背中に回した腕にギュッと力を入れてオイラを抱きしめた。 その日、夜中の0時過ぎに寝室のドアが開いたので何かと思ったら娘と一緒に寝ていたゲンがいた。カミさんが「ここで一緒に寝るの?」と聞くと「うん」と答えたが寝ぼけているのかどうかよくわからなかった。 ベッドの上に寝かされると、オイラの腕を持って自分の指でオイラの手をすりすりした。ずっとすりすりしながら寝息を立て始めた。 朝起きると、今日は娘とハルとゲンがバンコクを離れる日だった。